見出し画像

北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第14話「ねこの足/Cat’s paw」

画像1

【ぼく】3月18日

 年の瀬ギリギリに娘は生まれた。名前は、たいらの「たい」と、こかりの「こ」を合わせて「たいこ」。太鼓のようにどっしり構えて生きていってほしいとの願いも込めた。そこからの嵐のようなこの数ヶ月のことはあまり覚えていない。色々ハードだけれど、家にいてふたりであたふたできるのはフリーランス稼業の少ない利点かな。

 出産にも立ち会うことができた。こかりがウンウン唸っている隣で、どうしていいのかわからずオロオロしていたら、ほら、奥様を応援して、と言われたので「がんばって! もう少しだよ」とか、「いいよ、いいよ、その調子」とか「終わったらまたカステラ食べられるよ」など思いつくままの言葉を発していたら、「ちょっと黙ってて」と苦しそうな顔のこかりに言われた。その後、看護師さんに「ほら、手をにぎってあげて!」と言われたのであわててこかりの手を取ったら、すごい強さで握り返された。痛っ、と思った瞬間、娘が生まれていた。

 娘を初めて抱っこした時の気持ちにどんな名前をつければいいのか今でもわからない。嬉しい、安堵、感謝、温かい、などのポジティブ感情と、不安や恐れなどのネガティブ感情が均等にせめぎ合っていて、どちらも譲らなかった。最終的には、全部ごちゃごちゃになって、なぜか、仕事、これから大丈夫かな? みんなでちゃんと生きていけるかなあ? って現実的な不安に襲われドキドキしてしまった。イラストレーターなんていう、お気楽お絵かき稼業でこの子を支えていけるのかとても自信はないけれど、新しい命のぬくもりはとても温かい。

 そういえば、意外にって言ったらひっかかれそうだけれど、ホワンは本当に良くサポートしてくれている。寝ているたいこにいつもさりげなく寄り添い、彼女がぐずりはじめると、ニャーと鳴いてぼくらに教えてくれる。それも、毎回。ホワンがまだ赤ちゃんだったころ、スマが見守ってくれていたのと同じ構図だったので、感動して泣きそうになってしまった。赤ちゃんが家にいると、なぜか涙腺がゆるくなって困る。ホワンホワン、もしかしてあのころのこと覚えているのかな?


画像2

【ミー】March 20th

 ベイビータイコーが、ミーのベッドでスリープしている。ミーのソファの上でもスリープして、ミーのブランケットを使っている。コカリもタイラーもミーをだっこするより、タイコーをだっこすることの方が多い。さらには、「ホワンちゃん、タイコは赤ちゃんだからやさしくしてあげてね」なんてコカリに言われた。なんなんだ。それに、ベイビータイコーは朝でも、夜でも、クライ、クライ、クライ!

 ミーがベイビーだった時のことはほとんど覚えていないが、あんなにいつもクライしていなかったはずだ。ほかのねこベイビーも、ミー、ミー、ミーとキュートでミニマルにクライする、それに比べてニンゲンベイビーのラウドなこと! タイコーがクライする度に、ミーはおどろいて、ついジャンプしてしまう。おどろいて、ウォーターカップをひっくり返し、タイラーに怒られたこともあるし、毛づくろいしている時にびっくりして、自分のテイルをガブッとバイトしてしまったこともある。ベイビーだからって許せん、なんとかせねば。でも、ミーはピースフルキャット。自分より小さい相手にはアタックはしない。スマは別だけど。

 ミーは考えた。タイコーがクライする前に気がつけば、サプライズはない。ミーは、ベイビーをいつもウォッチすることにした。タイコーがクライする前は、フェイスがくしゃくしゃになり、ア~とかウ~とかさわぎだすことを発見した。ミーは、タイコーをじーっとウォッチし、そのフェイスを見つけたモーメント、タイラーとコカリをコールした。ノーマリー、ミーの言うことなんてぜんぜん聞かないやつらなのに、ベイビーのことになると、すぐにとんでくる。やつらも、ベイビーがクライすることにアングリーなのだろう。

 やつらのためにミーがハードワークをしているのはイヤだったが、この前「オクイゾメ」でビッグフィッシュをわけてくれたので許してやることにした。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

画像4

Cat’s paw
(ねこの足)

他人にコキ使われることや、手先として使われることを意味することわざなんだって。ニンゲンってひどいよね、何もこんなフレーズのためにねこを使わなくてもいいのにさ。ここは別に、ニンゲンの足でも、犬の足でも、たぬきの足でも、なんでもいいのに、なんでわざわざねこを使うかなあ。ねこは、だれの手先にもなりません! ぷりぷり。


画像4

前の話 連載TOPへ 次の話

毎月第1・3火曜日更新
更新情報は編集部のTwitterでお知らせしています。

北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2020年1月21日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

うれしいです!
HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

こちらでもピックアップされています

連載 北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記
連載 北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記
  • 31本

ホワンホワン、きみはいったい何者なの――? 売れないイラストレーターのぼくは、ある日1匹の子猫を保護する。ふしぎな行動ばかりするその猫には、じつは秘密があって……。大人気イラストレーターが贈る、実話をもとにした絵日記ストーリー。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。