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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第22話「心配事がねこを殺(あや)める/Care killed a cat 」

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ぼく】6月11日

 救急車のお世話になってしまった。生まれてはじめて。特に体調が悪かったわけでも、空腹でもなかったのに、電車の中で突然意識を失った。お医者さんは、3.11以降、不安や心労から心身のバランスを崩す人が多いからそれかもねって言っていたけれど、はっきりとした原因は不明なので、それこそ不安。節電のせいで表参道駅がやたらと暗かったんだけれど、もしかしたらあれも不安要素のひとつだったのかなあ。

 あの日、打ち合わせの帰りの電車で、いつものようにつり革につかまってぼーっと外を見ていたんだけれど、急に心臓がドキドキしはじめたのだ。こんなこと今まで一度もなかったので何だろう? って思いながら右手で胸を押さえていると、次はお腹がきゅーっと痛くなった。左手でさすっていると、今度は段々と体が火照ってきて、脇の下からダラダラと汗が流れ出した。次から次に何? って若干パニックになりながら脇をぎゅっと締めたら、最後は頭からさーっと血の気がひく感じがあって、視界をモザイクのような模様がすごい勢いで埋め尽くしてきて……バタンッ。

 たぶん意識を失っていたのは数分のことだと思う。目を覚ましたら同じ車両にいた5、6人ほどの乗客がみんなで心配してくれていた。なんでもぼくは後ろ向きに倒れたらしく、かなり激しく頭を打ちつけたんだって。そう言われてみるとたしかに後頭部が痛かったけれど、それよりもなんだかやたらと眠かった。徹夜明けなんて比べ物にならないくらい強烈な睡魔。みんなが手分けして車掌さんを呼びに行ったり、バッグから飛び出したぼくの荷物をかき集めてくれたり、額の汗を拭いたり、励ましてくれるのをぼんやりと見ながら、見知らぬぼくなんかのために、申し訳ないなあって思っていた。

 救急車の中では、「名前は?」「住所や電話番号は言える?」「誰に連絡すればいい?」って矢継ぎ早に聞かれた。道中、ずっと眠かったのに一睡もさせてもらえなかった。そういえば途中からペット話にもなって、ホワンのことも色々話したから、あの時ホワンはくしゃみをしていたと思う。

 病院でCTスキャンや血液検査などを受けている間にこかりがたいこの手をひいて駆けつけてくれた。こかりがあまりに真っ青な顔で「生きててよかった」って言うのを見て、逆にぎょっとしてしまった。自分が死んでいたかもなんて全然考えていなかったけれど、たしかに頭の打ちどころが悪かったら可能性としてはゼロじゃなかったもんね。怖い。本当に、「生きててよかった」だ。まだ何ひとつ成し遂げていないのに、ここで死んでしまっていたらそれこそ化けてでないとならないくらい未練タラタラだった。Steve Jobsのスピーチで、毎日が人生最後の日だと思って生きるって話があって、当時はあまりピンときていなかったけれど、今ならわかる気がする。


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【ミー】June 10th

 あつい、あつい、あつい、あつい。ホット、ホット、ホット、ホット! 今日はこんなにホットなのに、ホワイ、クーラーをつかわない? ミーは、メルトしてしまう。ミーがアイスクリームやスノーマンだったらとっくにデッドだ。タイラーは本当にコールドなやつだ、もしかしたらタイラーの近くにいればクールかもしれないけれど、今日、タイラーはいない。どこかでクーラーをひとりじめしているのならユルサナイ。

 クーラーが使えないのは、どうもセツデンってやつのせいらしい。セツデンってだれだ? この前のジシンのフレンドか? そいつもジシンのようにビッグでミーよりもストロングなのか? 最近いやなことばかり、周りはいやなやつばかり。ここにはグッドなネイバーはいないのか?

 タイコーもセツデンがきらいみたい。「もう、セチュデンいやだあ、あついからクーラーちゅけてー」ってクライしてる。よし、いいぞタイコー。クライベイビーの時のタイコーはラウドだからキライだけれど、今日はチアしてやる。コカリもタイラーもミーの言うことはリッスンしないくせに、タイコーの言うことはなんでもやる、ひどいもんだ。ミーは、コカリが「じゃあ、そうしようか!」ってクーラーをつけるのを待っていたが、なんとコカリは「ごめんね、セツデンでクーラーは使えないのよ」って、タイコーよりもセツデンをチューズした! 本当にセツデンってフー? タイコーよりもインポータントなやつだったとは。シンジラレナイ。

 ノーズがムズムズしてクシュンとスニーズが出た。そんなミーを見てコカリが「ほら、ホワンちゃん寒いのかもしれないわよ、かわいそうだからクーラーはがまんしましょうね」って言って、タイコーも「うん、かわいしょうだからね」ってノッドした。ノー! ちがうよ! あつい、あつい、あつい、ホット、ホット、ホット……。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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Care killed a cat
(心配事がねこを殺める)

「Care killed a cat」は、心配しすぎるのは体に毒だよって意味。「病は気から」とも意味が近いかな。とにかく考えすぎて煮詰まらずにおおらかに過ごせれば一番いいんだけれど、今の世の中、それも難しいかもね。今っていうか、いつの世の中でも難しいのかな? 今度ホワンちゃんに昔の世界のこと聞いてみよ。


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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2020年5月26日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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HB(エイチビー)は、集英社グループの出版社・ホーム社の文芸サイトです。2017年11月にサイトを立ち上げ、2020年にnoteへ引っ越してきました。小説やエッセイを中心に、毎日をより楽しく過ごすための、さまざまなコンテンツをお届けします。

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