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パフェが広がる時空間|斧屋「パフェが一番エラい。」第12話

 パフェにトレンドなんぞあるのか、と思うかもしれないが、ある。
 毎年1日平均1本ペースでパフェを食べ続けていると、いろいろと見えてくるのだ。
 昨年(2019年)はかき氷パフェ(※注1)が目立った。テイクアウトパフェの流れも加速し、パフェの軽量化が目立つ年だったと言える。

 今年もいろいろな傾向が出てきたが、一つの大きな流れとして、「器の拡張」がある。
 前回の#11で述べたように、パフェにとって器(グラス)の存在は本質的である。器はパフェの具材を支え、層構造を決定する。器が変われば、パフェの食べ方が変わる。そこには、より新鮮な体験が生まれる可能性がある。
 以前より存在するパフェの表現方法として、「帽子型」と名付けているものがある。これは、グラスの上に薄いチョコレートやクッキーやメレンゲの板を蓋のようにかぶせ、その上に具材を載せることで立体感を演出したパフェである。パフェ表現の場を上方向に拡張している。インスタグラムでパフェの画像を漁(あさ)ったことがある人なら、一度は見たことがあるだろう。
 たとえば、新たなパフェ表現を常に追求し続ける店として知られる、逗子(ずし)のdessert cafe HACHIDORIのパフェを見てみよう。画像(画像1)のパフェはグラス上に薄いクッキーを載せ、その上にまるで薪(まき)のように大葉のメレンゲを積んでいる。雪景色の中に春を感じさせる風味を巧みに忍ばせた傑作である。帽子型はグラス内に空間を作れることも特長で、グラスをぱんぱんに詰めることなく立体的な表現ができるため、パフェが重たくならない。
 そしてここ数年、この帽子型の派生系と言えるようなパフェも散見されるようになってきた。一つは、グラスの上にもう一つグラスを重ねるタイプのパフェだ(画像2)。この場合、ふつうは上に重ねられたグラスに入っている中身を食べたのち、下のグラスを食べるということになる。
 また別の方法として、グラスの上に、食べられる器を載せるというやり方がある。これは先述の「蓋」が変形したものとも捉えられる。パフェの表層部分に、タルト生地やボウル状のチョコカップを載せ、その中に具材を入れるやり方だ(画像3)。
 このような器の上方向への拡張もあれば、下方向への拡張もある(※注2)。それは「こぼれ系」と私が呼んでいるパフェで(※注3)、パフェグラスの受け皿に果物や菓子を飾る手法である(画像4-5)(※注4)。フルーツパフェの場合、あたかもグラスからこぼれ落ちたかのように見えるため、「こぼれ系」と一旦名付けた。イクラがこぼれた軍艦巻きと同じようなものとイメージする方もいるだろう。この春は、いちごの「こぼれ系」を出すお店が多く見られた。
 さて、以上が空間的な拡張である。さらにもう一つ大きな流れとして、「パフェのコース化」がある。これは、パフェの時間軸を拡張する試みである。たとえば、昨年秋に銀座にオープンした「ビューティーコネクション銀座」のフルーツサロンでは、パフェを主役とした4品のスイーツからなるフルコースを提供している。等々力(とどろき)の「パティスリィ アサコ イワヤナギ」でも、今年1月にパフェを主役とする特別なデザートコースを予約限定で提供した(※注5)。そもそもパフェは、そのグラス内の層構造から、コース料理にたとえられることもあるわけだが、それが再びコースの中に位置づけられるという興味深いトレンドが起きつつある。この流れは今後も続くだろう。
 パフェは空間的拡張と時間的拡張を伴いながら進化している。すべてを飲み込み、いずれすべてがパフェになる。


※注1:「パフェ氷」「氷パフェ」など、お店により呼び名は様々である。
※注2:本文中では言及しなかったが、パフェの横への拡張は、グラス形状の変化として表れる。横に長い直方体の花器をパフェグラスに転用した例や、平皿でもパフェと名乗る例などがこれにあたる。
※注3:この「こぼれ系」という名称だが、「フルーツパーラー系」のパフェには似つかわしいが、「パティスリー系」にはそぐわない名称である。フルーツパーラーの「こぼれ系」パフェであれば、「フルーツが元気もりもりすぎて、グラスからこぼれてしまった」という表現は適切に思える。しかし、パティスリー系はパティシエの作品としてのパフェであるから、パティシエの意図を離れた「こぼれ」という現象が起きてはまずいのである。あくまで作品として、グラスの受け皿の部分も美しく飾り付ける、という意味では、SNS上で見かけた「あしらい」という表現がぴったりくる。「こぼれ」と「あしらい」、パフェの思想が異なるだけに、名称を統一するのは難しそうだ。
※注4:受け皿に飾られる量によっては、グラスからこぼれたというより、デザートプレートの皿の上にパフェグラスが載っている、と捉えられるケースもあるだろう。
※注5:4月からは定期的に季節のコースを提供予定とのこと。

画像1

▲画像1:薪をくべる。パフェをたべる。dessert cafe HACHIDORIの、マスカルポーネ・イチゴ・大葉のパフェ「雪の中の春の息吹」

画像2

▲画像2(左):ホワイトチョコの「器」が載っている。ショコラティエ パレドオール(丸の内)の「パフェ インスピレーション インディア」(2019年夏)
▲画像3(右):2つのグラスを重ね、上はさっぱり、下は濃厚に。カフェ&ブックスビブリオテーク(自由が丘)の「ストロベリーショートとチョコレートブラウニーのクリスマスW(ダブル)パフェ」(2018年冬)

画像3

▲画像4(左):昼の時間帯はプレートにチーズやジュレなどがついてくる。ミルピグパフェ部(横浜 桜木町)の「焼き芋(マロンスイート)パフェ」(2020年1月)
▲画像5(右):いちごがこぼれる。でも向きは揃っているから、お行儀がいい。ベルガモット(武蔵小山)の「苺パフェ」(2020年2月)

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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter @onoyax

※この記事は、2020年4月9日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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コメント (1)
論文みたいで読みごたえがありました!
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