第4話 夏たちが待ってる|賽助「続 ところにより、ぼっち。」
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第4話 夏たちが待ってる|賽助「続 ところにより、ぼっち。」

大好評のHB連載「ところにより、ぼっち。」が帰ってきた!
ゲーム実況グループ「三人称」の一員としても活躍する作家・賽助が、ぼっちな日々を綴ります。 (※第1話と最新話は無料公開)
illustration 山本さほ

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前回のあらすじ
「夏らしいことをしたい!」と毎年思い続けていた僕ですが、今年ようやく実行に移すことにしました。コロナ禍における移動手段として一番他者に遭遇しない方法は車移動だと考えた僕は、12年のブランクがある運転の勘を取り戻すべく『ペーパードライバー講習』に通うことにしました。

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 久しぶりの運転ということでかなり不安だったのですが、思いのほか感覚を覚えていたようで、初回の講習をかなりスムーズに終えることができました。
 次は2コマ連続の路上講習。運良く前回と同じ教官が担当となり、彼女の指示に従って繁華街や細道と、町中をあちこち走ります。

 比較的走行しやすい広い道路から一転して視界の悪い裏通り、踏切や陸橋、高架下など、一つの町にこんなにも色々な道路があるのだということを再認識させられます。

 教習所内と路上とでは緊張感が全く違うので困難が予想されましたが、実際に講習が始まると、ミスというミスはほとんどなく、アッサリと講習を終えてしまいました。

 あまりにもアッサリと終えてしまったので、もうこれで本番なのかと少し心配になってしまいます。もちろん追加で講習を受けることも可能でしたが、教官からも「問題なさそうです」とのお言葉を頂戴していたので、ここでペーパードライバー講習は終了し、いざ本番を迎えることにしました。

 慎重であれば問題なく運転ができると分かった今、レンタカーを借りさえすれば、どこに行くのも自由です。

 しかし、スケジュール的にこの夏に出掛けられるチャンスはおそらく一度きり。
 どこに行くべきなのか、場所選びも自然と慎重になってしまいます。

「もし失敗したらどうしよう……」
「失敗ならまだいいけれども、何も感じない旅になってしまったらどうしよう……」

 不安が頭をもたげます。
 どこかに旅行するのにここまで悩んだことは今までないかもしれません。

 思えば、今までの旅は何かしら明確な目的があったか、あるいは誰かに連れていかれたものばかりだったように思います。

 自由を与えられると何も選べなくなる、というこの感覚を味わったのは久しぶりのことでした。

「夏らしいこと」とは何だろう、と改めて考え直します。
 少し遠めの小旅行をしたいという気持ちに変わりはありませんが、『コロナ禍』という情勢なので、なるべく他者と触れ合わずに行ける場所にしたいという感情も変わっていません。

 例えば、珍しい鉄塔を見に行くのはどうだろう?
 あるいは、場末ばすえのアミューズメント施設を訪れてみる、なんていうのもいいのではないか?

 色々な案が浮びましたが、結局、僕は墓参りに行くことに決めました。
 僕の祖父や祖母が眠っているお墓です。

 僕の家のお墓は埼玉県秩父市の霊園にあります。
 子供の頃は父親が運転する車に乗って、家族に従妹いとこも加わり、皆で墓参りに出掛けたものでした。

 その霊園には祖母の姉妹のお墓や従兄弟いとこの家のお墓もあるので、一度訪れるだけで親族全てのお墓を回れるという、かなり利便性の高い墓石群なのです。

 しかし、僕が成長し、一人暮らしなどを始めるようになってからは、家族そろって墓参りに行くことも殆どなくなりました。
 ただ、3年ほど前に僕一人で電車に乗って墓参りに行ったことはあるので、それほど久しぶりの墓参りというわけではありません。

 それでも僕が墓参りに行こうと決めたのには理由があります。

 家族で墓参りに行った際、車を運転するのは父親のみです。
 母も運転免許は持っているのですが、運転は全くしません。聞いた話では、免許を取って意気揚々いきようようと車を車庫から出そうとしたものの、車体を思い切り駐車場の壁にこすりつけ、父の車を傷だらけにしてから一切運転をしなくなったようです。

 兄は免許を持っていませんし、弟の僕はブランクから車を運転しなくなっていました。

 今はまだ元気に車を運転し、週末になれば母と共に大好きな浦和レッズの応援に出掛けている父ですが、いずれは免許を返納する時が訪れることでしょう。

 そうなると、今のままでは僕の家族は墓参りに行けなくなってしまうのです。
 手入れがされない墓は荒れに荒れるでしょうし、そこで眠る祖父や祖母もどこかしらで荒れに荒れるでしょう。

 なので、この夏に車でお墓参りに行くというのは、いずれ来る日への予行演習にうってつけです。
 それに、秩父という場所は距離的にもほどよいですし、山もあれば川もある、僕が求める『夏らしさ』満載といえます。


 夏と、祖父と祖母たちが待つお墓へ、レンタカーで向かいます。

続ぼっち第四話イラスト

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連載【続 ところにより、ぼっち。】
毎月第2・4火曜日更新
第1話と最新話は無料公開

賽助(さいすけ)
東京都出身、埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。また、著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』『今日もぼっちです。』がある。
Twitter:@Tettou_
●「三人称」チャンネル
ニコニコ動画 https://ch.nicovideo.jp/sanninshow
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg

山本さほ(やまもと・さほ)
1985年岩手県生まれ。漫画家。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(ウェブサイト「note」掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作(リニューアル版)は『ビッグコミックスペリオール』での連載後、単行本が2018年に全5巻で完結した。『無慈悲な8bit』『きょうも厄日です』『てつおとよしえ』を連載中。
Twitter:@sahoobb

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