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パフェは、甘くない?|斧屋「パフェが一番エラい。」第24話

「パフェは、甘くない」、と言ったら、また天邪鬼(あまのじゃく)と思われそうである。

 お菓子全般を「甘いもの」と言ったりする。英語でも「sweets」、甘いものだ。パフェはスイーツ、甘いものではないのか? むしろパフェこそ、甘いものの象徴ではないのか?

 いや、それでもなお、「甘くない」と言おう。

 パフェを、甘くて重くて、食べ切れないというイメージで捉えている人が、現代的なパフェを食べたら、「甘くない」と感じるはずだ。

 いわゆる純喫茶で提供されているような往年のパフェのイメージは、ホイップクリーム、シロップ漬けのフルーツ、チョコレートソースといった、甘さを強く押し出したものだろう。実際、私もそういったパフェを食べてまわったことがある。なぜ、こんなに甘いのだろうと思ったものだ。もう少し甘さを抑えた方がいいのではないか。
 日本では昭和40年代頃から純喫茶ブームを迎える。そこでパフェも定番メニューになっていったと考えられるが、純喫茶の多くでは、その当時のレシピをそのままに、今も甘いパフェを提供しているのではないかと思う。
「なぜこんなに甘いパフェを出すのか」と問う前に少し考えてみよう。この甘さこそがおいしさという時代があったのではないか。パフェが大衆に広がっていった時代には、甘さそのものが貴重な体験であり、甘さを存分に感じられるパフェこそが快楽の極みだったのではないか。そんな仮説を立ててみる。
 そしてこの甘さそのものも含めて、パフェにはいまだにノスタルジックなイメージのもやがかかっている。

 一方で、「甘さ=おいしさ」とは言えないパフェが続々登場している。現代は甘さにあふれていて、ただ甘いというだけでは必ずしもパフェのおいしさにつながらない(注1)。もちろん生物の習性として甘みに快を感じることは確かだが、多過ぎても飽きてしまう。
 他のスイーツに比べて量の多いパフェは特に、味のバランスをどうとるかが重要となる。たとえばケーキと同じ発想でパフェを作ると、甘く重くなりすぎて失敗してしまう。パフェを「甘いもの」と捉えて、甘さを強く押し出してはいけないのである。そこで多くの店が、甘さだけでなく、酸味や苦み、時には塩味や辛みまでを絶妙に組み合わせるようになってきた(注2)。
 神楽坂に今年9月にオープンした「パフェバー agari」。カフェを間借りして不定期で営業しているパフェ専門店である。「Prince シャインマスカットパフェ」は、熊本産のシャインマスカットを主役に据え、ビーガンカルダモンアイス(香る)、ジンジャー味のビーガンクランブル ホワイトチョコがけ(香る)、ヨーグルト入り生クリーム(酸味)、シャインマスカットとグレープフルーツのマリネ(酸味・苦み)、エルダーフラワーゼリー(香る)、無糖生クリーム(甘くないのがいい!)、緑茶のゼリー(香る)、金木犀(きんもくせい)のシロップ(私が食べたときは生姜のシロップ)と続く。
 素材の自然な甘さはあるものの、これを「甘いもの」というのがためらわれるくらい、甘さは抑えられている。甘みが、他の味や香りと対等な関係にある。大きな振幅ではなく、微弱な揺れが奏でる繊細な音を聴き分けるようなパフェである。
 心を静かにして、秋の音色に耳をそばだてる。生クリームも、ゼリーも強く主張することなく、優しい。ホッとするパフェなのだ。

 秋きぬと目にはさやかに見えねども
  パフェの音にぞおどろかれぬる

※注1: とはいえ、レトロな純喫茶の甘々なパフェに抗いがたい魅力があるのも確かだ。飽きるほど食べたいという欲望、飽きるほど食べたという満足感。
※注2:様々な味や香りを組み合わせるのは「パティスリー系」に多く、「フルーツパーラー系」のパフェは果物の甘さが中心になることが多い。それでも、生クリームの甘さは抑えて、果物の自然な甘さを引き立てることが多い。お店それぞれの「生クリーム(ホイップクリーム)の甘さ」は、パフェを評価する一つの基準となる。

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▲パフェバー agari「Prince シャインマスカットパフェ」
静かで、いいお声の王子様ですね。

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斧屋(おのや)
パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。
Twitter:@onoyax
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