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北澤平祐 ぼくとねこのすれ違い交換日記 第18話「冷たいねこ/Cool cat」

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【ぼく】12月3日

 この1年間、一度も途切れずにイラストの仕事が入った。めでたい! 打ち合わせの帰りに渋谷東急のデパ地下でタイムセールのお寿司を買い、ささやかなお祝いをした。初めてこんなに仕事が連鎖したとはいえ、今の収入じゃあ、4人家族(ホワン含む)の生活を支えるにはまだカツカツなのでがんばらないと。

 そんな時に、カメラマン屋陸さんがパーティーに誘ってくれた。屋陸さんは、アメリカ時代に知り合ったから、付き合いも結構長くなってきたなあ。同時期に帰国したよしみでいつも良くしてくれる。ありがたや。そういえば、帰国したばかりの頃、名刺の渡し方がひどい! って怒られた話をした時もお作法を教えてくれたのが屋陸さんだったなあ。(名刺は両手で持つ! 相手よりも低く出す!)思い返すと、当時の自分のあまりの無知さ加減にちょっとひくかも。

 今回のパーティーは、大手広告代理店のアートディレクターが、定期的に開いている異業種交流会とのことで、デザイナーから俳優まであらゆる職種の人が集まるらしい。ぼくは人見知りだし、面倒くさがり屋なので、ちょっと躊躇していたら、屋陸さんに「フリーの仕事の9割は種まきだから、こういう集いにはなるべく顔を出したほうがいいよ」と諭され、お供することにしたよ。

 パーティー会場は、なぜかヨーロッパの車ディーラーがやっている青山のおしゃれなカフェだった。薄暗くムーディーな店内の真ん中には、高級外国車が鎮座し、その中ではいかにも業界人っぽいおじさんが女の子をくどいていた。なんかいかにもすぎて陳腐に聞こえるけれど、ほんと。一応、自分もジャケットくらいは着ていったものの、想像以上に華やかに着飾っている人が多くて気後れしてしまった。でも、屋陸さんもぼくと同じくらい適当な格好をしていたから心強かった、さすがは同志。

 パーティーでは、隣の人と指切りげんまんをするように小指をからませての乾杯など、独特なノリとこれまたお作法があり、最初はヤバイところに来ちゃったなあ……とすぐに帰りたくなった。でも、主宰者の町田さんは気遣いがすごい人で、ぼくが初めて参加していると知るやいなや、ぼくを連れ回し、周りの人達にどんどん紹介してくれた。正直、町田さんとは初対面だったし、なんの利害関係もないのに、無名の若造に対してこんなに優しくしてくれることに驚いた。紹介して頂いたみなさんも、名刺の肩書を見ただけで萎縮してしまうくらい、それぞれの第一線で活躍している方ばかりだったけれど、だれも威張っていなかったし、皆揃って謙虚だった。本当にすごい人たちってこうなんだって感動した。いつか彼らのような立場になれた時、同じように振る舞えたらいいな。

 パーティーでは、だれも仕事の話なんてまったくしなかったので、種まきになったかと聞かれれば微妙だけれど、何人かの素敵な方たちと意気投合して、今度ごはんに行くことになった。デザイナーの春さん、カメラマンのオサダさん、雑貨店をやられている矢野さんだ。今から楽しみ、ご縁に感謝しないと。


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【ミー】November 29th

 オルスバンはキライだ。「ホワンちゃん、すぐもどってくるからね」って、ぜんぜん帰ってこない。タイラーはライヤーだ。それになんで、タイコーはいっしょに行けるのにミーはいつもステイなのだ。別にミーはロンリーなわけじゃない、アップセットなだけだ。ほんとだよ、ロンリーじゃないって。ほんとだよ……。

 今回は、スマとオルスバンだった。最近スマがよくうちにステイする。「じいじとばあば、また旅行だって。行けるうちにね……って」ってコカリがタイラーに言いながら、なぜか少しサッドなフェイスをしてた。どうした?

「じゃあスマお兄ちゃん、ホワンのことおねがいね」ってタイラーが言いながら出て行った。ホワイ、スマにケアしてもらわないとならないんだ! ミーはますますアップセット。オルスバンの間にイタズラをすることにした。

 ランドリールームから新しいブラパ、クローゼットからタイラーのセーター、ゲンカンからタイコーのタイニーなグローブをスティールして、コタツの中にかくした。みんな帰ってきたら「ナイ、ナイ、大変だ!」っておおさわぎするだろう。もしかしたらタイラーも、タイコーのようにクライするかもしれない。楽しみ楽しみ。ミーをオルスバンさせるからいけないんだ。

 スマはずっとスリープしてる。アップセットもしていなさそうだし、もちろんイタズラもしない。スマは、オルスバンがイヤじゃないのか? おいていかれてアングリーじゃないのか? もしかして、タイラーにグッドボーイってほめてもらいたいからか? ミーは、スマのようなダサいティーチャーズペットにはなりたくない、ミーはファイターでありたい。

 コタツの中でスリープしていたみたい。「もう! こんなイタズラして!」と、タイラーがイエルする声でウエイクアップした。へへへ、タイラーがおこってる。ミーはスマイル。すると、タイラーが「スマちゃん悪いぞ、ぜったいわざとだろ、すぐ横にシートがあるのに!」と、言った。え、スマ? ホワット? ミーじゃないの? なんで? ミーはコンフューズしながらコタツから出ると、タイラーが、スマのオシッコでステインされたラグを持って立っているのが見えた。


ねこようせいによる「ねことわざ」解説

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Cool cat
(冷たいねこ)

Cool catは、かっこいい人のことを表す言葉。元々は、先進的な音楽であるジャズを好む人を指して使っていたみたいだよ。本当にねこを冷やすわけじゃないからご安心。ホワンちゃんも夏なら喜ぶだろうけれど……どちらかというと、冷たいねこ、醒めたねこ、って感じの意味かな。しかし、英語では、hip、rad, awesomeなど、かっこいいを表現する言葉が結構あるんだ。英語圏の人たちは褒め上手な人が多いからかな。


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北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com
Twitter@nevermindpcp

※この記事は、2020年3月17日にホーム社の読み物サイトHBで公開したものです。

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