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第3回 浪人 賽助「続々 ところにより、ぼっち。」
大人気連載、3期目に突入!
ゲーム実況グループ・三人称の「鉄塔」こと作家の賽助が、ぼっちな日々を綴ります。
※全24回予定。第2回以降、最新話のみ1週間無料配信。
[毎月第4火曜日更新]
illustration 山本さほ
NHK文化センター青山教室で「恐れず何度も挑戦し続ける『ぼっち』論」という講演会をすることになり、人生で初めてのパワーポイントを使いながら講演内容を考えています。
ゲーム実況だの作家業だのラジオだの、いろいろな仕事をさせてもらっているからか、仕事の依頼も様々なものがきますが、まさかNHK文化センターから講演会の依頼がくるとは思ってもみませんでした。
講演内容も『ぼっち』を扱ったもので、思い返せばこの連載エッセイから始まり、『ひとりのよる』と題されたラジオ番組を持たせてもらい、果ては講演会まで開くのですから、いよいよ僕は『ぼっち』で仕事を取っているのだなあと思うと、なんとも複雑な気持ちになります。
最近また「鉄塔さんはビジネスぼっちでしょ」と言われることが増えてきたのですが、確かに『ぼっち』でビジネスをしているのに違いはないので、反論しにくくなってきました。
そんな講演会で講演するにあたり、「自分が『ぼっち』だと感じたのはいつなのか」を考えてみることにしたのですが、あれこれ悩んだところ、僕が実際に『ぼっち』をしっかりと感じたのは、ひょっとすると浪人生の時だったのではないかと思い当たりました。
僕は以前、このエッセイの連載をまとめた『今日もぼっちです。』の中でぼっちには2種類あると書きました。一つは『肉体的(状況的)ぼっち』で、周囲に誰もいない状態の人のことを指しており、もう一つは『精神的ぼっち』で、周囲に人はいるものの孤独感を感じている人のことを指しています。
僕が今まで書いた『ぼっちエピソード』の多くは『状況的ぼっち』であることが多く、また遭遇するものもそちらが多い気がしますが、『精神的ぼっち』をしっかりと味わったのは浪人中が初めてのことだったかもしれません。
大学受験に失敗した僕は、埼玉県は大宮にある予備校に通うことになります。
僕の家を中心に考えると大宮は北側になるのですが、僕が通っていた高校は真反対の南側であったこと、さらに周囲で浪人を選択する者はおらず、僕は一人で予備校に通うことになるのだなと思っていました。
しかし、いざ通い始めてみると、その予備校には中学生時代の同級生の姿がありました。
彼とは特別仲が良かったわけでもなく、高校はそれぞれ別のところに通っていたため連絡を取ったこともなかったのですが、同じ中学校だったよしみもあり、「久しぶり」と会話を交わすことになります。
彼は交友関係が広く、別の予備校に通っている中学の同級生とも繫がっており、お昼の時間などはともに過ごしているようで、折角だから一緒にどうかと声をかけてくれました。
一人で予備校に通う心細さや、浪人中に何をしたらよいのか不安であったこともあり、僕は彼と行動をともにすることに。お昼になってよく集まっているらしいファミレスへ行くと、そこには中学の同級生と、彼の高校時代の友人たちの姿がありました。
彼の友人らも浪人生とのことですが、完全に初対面です。
想定外の人物の登場に非常に気まずい気持ちになったことを覚えています。
彼らは今でいうところの『陽キャ』というやつなのでしょうか、「友達の友達ならいったん友達」みたいなノリで僕を迎え入れてくれました。
今でこそ、自分は「ウェーイ!」みたいなノリが苦手だと公言して憚らないですが、当時はまだ自分がそちら側にも順応できるという可能性を信じていた時代。自分が野暮ったい男だということがバレないように、必死に取り繕いながら話を合わせました。なんなら「ウェーイ」と返していたかもしれません。
そんな彼らの話題のほとんどは「ギャンブル」と「いかにモテる男になるか」の話で構成されていました。僕はギャンブルもしなければモテもしなかったので、その話に交じれないながらも相槌を打ち、彼らの話を聞いていました。
彼ら特有の雰囲気になかなか馴染めないなと思う反面、自分も彼らのような趣味嗜好を持てば楽しいのかも(そしてモテるようになるのかも!)しれないという思いも感じていて、僕はしばらく彼らとは付かず離れずの浪人生活を送ることになります。
生まれて初めてのスロットも経験し、このスピードで千円札がなくなるのかと驚愕したものです。そして、その時僕は小当たりを引き、『5000円相当の何か』を手にしましたが、こんな短時間で儲けてしまったことがなんだか怖くなってしまい、そこで打ち止めにしました。
当時、あまりにもお金がなさ過ぎて、ファミレスでドリンクバーとフライドチキンだけを注文し、どうにか時間をつぶしていたくらいだったので、「ギャンブルとはかくも恐ろしいものか……」と身に染みて感じたものです。その後、大学生になって2回ほどパチンコを打ったくらいで、それ以降様々なギャンブルに手を出していないのは、この浪人中の経験が影響しているのかもしれません。
ただ、どれだけ彼らと過ごしてみても、その時間を心から楽しめていないという感触は拭えませんでした。調子を合わせてみたり、愛想笑いをしているうちに、自分という人間が内側と外側とで別物のように思えてくる感覚を強く味わったのはこの時が初めてかもしれません。
「自動改札は二人ピッタリとくっついていれば通り抜けられる」
「いや、絶対無理。それは無理」
「俺やったことあるから」
「マジで無理。それは嘘」
こんな会話から徐々に険悪になっていき、片方がいなくなってから「あいつは嘘つきだ」と悪態をつく様子を見て、心底どうでもいいと思いながらも、「なんだろうねー」なんて話を合わせている自分に情けなさを感じます。
こんな風に思うのならさっさと彼らから距離を取って勉学に勤しめよ浪人生! と今ならば声を大にして言えますが、一度入った集団から抜けるというのもなかなか勇気がいるもので、結局はまたいつものファミレスへと向かってしまうのでした。
義務教育期間こそ終わっているものの、気持ちとしてはまだ義務教育の最中にいるような気持ちであったからかもしれません。グループから離れてしまうと自分が否定されると感じたのかもしれません。
あるいは、絶対に勉強をせねばならないという状況から目をそらすための共犯者を求めていたという側面もあったのかもしれません。
しかし結局、それぞれ目指すべき大学が違うため、日が経つにつれて個々の戦いにシフトしていきます。
集団で集まることもなくなっていき、やがて彼らと会うことも少なくなっていきました。
それから月日は流れ、僕は無事目標の大学に合格し、晴れて大学生となりました。
中学の同級生であった人たちの結果は何となく分かっていますが、他の彼らがどうなったのかはいまだに知りません。
それ以来会うこともなくなり、今ではぼんやりとあだ名を覚えている程度です。
あの時代に帰りたいとは微塵も思いませんが、ただ、あの浪人時代、彼らだけでなく、取り繕っている自分までもが嫌になっていたあの時間がなければ、今の僕はもう少し薄っぺらかったのかもなと思うと、あれはあれで自分に必要な時間だったのかなとも思うのでした。
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【続々 ところにより、ぼっち。】
毎月第4火曜日更新
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賽助(さいすけ)
作家。埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。毎週木曜深夜1:30からラジオ「三人称・鉄塔 ひとりのよる」(文化放送)が放送中。著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』『今日もぼっちです。』『今日もぼっちです。2』『手持ちのカードで、(なんとか)生きてます。』がある。
X:@Tettou_
「三人称」YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg
山本さほ(やまもと・さほ)
漫画家。1985年岩手県生まれ。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(note掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作は『ビッグコミックスペリオール』で連載後、2018年に全5巻で完結。現在『無慈悲な8bit』(週刊ファミ通)『きょうも厄日です』(文春オンライン)連載中。その他の著書に『山本さんちのねこの話』『てつおとよしえ』等。
X:@sahoobb
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